釣り針を飲み込んでしまった
ウミネコの話

2001年9月17日(月)、夕方6時少し前...
よく私は空を見上げてます。何か鳥は飛んでいないかなと。
その日も仕事を終え、仕事場から外へ出ていつものように空を見上げました。
パサパサパサ...かわいた羽音が聞こえました。
ふと音のした方を見やると、電柱の上にウミネコの姿があります。
しかし何かいつもと違う。
羽ばたくばかりで、ちっとも飛んでいかないのです。
よく見ると、翼が電線に引っ掛かっているように見えました。
このままでは感電するか、翼が折れて死んでしまうかもしれない...
そこで近くの関西電力に電話して、
ウミネコが電線に引っ掛かっている旨を伝えました。
悲鳴を聞きつけた仲間のウミネコたちが
たくさん上空を旋回しています。
が、しかし私も仲間達も、今はどうしてやることも出来ません。
一旦家に戻り、着替えて戻ってみるとウミネコは
さっきとは少し離れた場所で電線に留まっています。
翼が絡まっていたのは、はずれたのだろうか?
しかし、翼は両方ともだらりと下ろして、
相当弱っている様子に見えました。
待つこと1時間足らず、関西電力の高所作業車が駆けつけてくれました。
もう7時前、あたりはもうすっかり真っ暗です。
クモの巣のような電線の間を、慎重にバケットは上がっていきます。
聞くと、一番上の電線は6000V、一つ間違えば即死です。
絶縁のカバーを巻き付け、万が一のことがないように作業は進められました。
「ウミネコにテグス(釣り糸)が巻き付いている!」
上で作業をしていた人が叫びました。
翼が電線から離れたように見えたのに、飛んでいかなかったのは
釣り糸が電線に絡みついていたからなのでした。
ウミネコはバケツに入れて下ろされてきました。
釣り糸が体中に巻き付き、口からも何本もの釣り糸が出ています。
カッターナイフを借りて釣り糸を切ってやりましたが、
釣り針を飲み込んでしまったようで、これはどうしようもありません。
海釣りの仕掛けには、針が何本もつけてあり、
複数飲み込んでいればかなり危険です。
用意した段ボール箱にウミネコを入れてやり、
急いで動物病院へ連絡を入れ、車で向かいました。が、しかし
今回は助からないのでは...そんな不安が頭をよぎりました。
動物病院へ到着、さっそく胸部のレントゲンを撮ってもらいました。
場所柄か、釣り針を飲み込んだ鳥が時々連れてこられるそうで、
気嚢の裏側まで針が達していたら、手術はむずかしいかもしれない...
そう告げた獣医さんの表情もつらそうです。
数分後、レントゲン写真が出来上がりました(上の画像)。
針は叉骨の裏、人間で言えば鎖骨のあたりに一本刺さっているだけでした。
これなら針を取り出すことも出来る!
ウミネコに麻酔がかけられました。
大人しくなったウミネコは手術台に寝かされ、
切開する部分の羽が取り除かれます。
後は獣医さんに任せるしかありません。
私は隣の部屋でじっと手術が終わるのを待つことにしました。
30分以上の時間が経っただろうか、獣医さんが私を呼んで
今切開したウミネコの食道部分と、取り出した釣り針を見せてくれました。
手術は成功しました。後は縫合したところが化膿しないよう
三日間ほど薬を飲ませるように言われました。
お世話になった獣医さんも、このような事には心を痛めておられて、
放置釣り針による野生鳥獣の事故が無くなるように、
府の機関へこのような事例を報告されているとのことでした。

右の画像はウミネコの食道から取り出した釣り針です。
背景は5ミリマス。
これは別のウミネコですが、今回見つけたウミネコも
このように口から釣り糸を垂れ下げた状態で電線に絡まり、
身動きが出来なくなったのでしょう。
野生の鳥獣を保護した場合、一番苦労するのが餌やりです。
どんなに好物を置いてやっても、環境の急変で
いっさい何も摂らず、仕方なしに強制給餌する事の方が多いものです。
「今回も注射器で無理矢理押し込むのかなぁ」
そんなことを思いながら、買ってきた魚を
パックごとウミネコの前に置いてみました。
前夜は手術が終わって家に帰ったのが夜の10時過ぎ。
ウミネコの食事は翌日の夕方、買い物に行くまでお預けでした。
魚を見ても警戒している様子で、なかなか食べようとはしません。
ウミネコは考えます。

ウミネコは悩みます。
パクッ!一口食べたウミネコは、後はもう堰を切ったように
パクパクパクっと、マメアジを10匹も飲み込みました。
おなかが一杯になったウミネコは、とても満足そうです。
ウミネコはぴったりサイズの段ボール箱に入れて、
あまり動けないようにしました。
むやみに大きいと、中で暴れて体力を消耗することもあります。
底には新聞紙を棒状に丸めたものを並べて、
フンがその下に落ちるようにしています。
ウミネコも、家人が留守の間は狭い箱の中で留守番です。
しかしそれでは、ウミネコのストレスも溜まりそう。
そこで傷口がふさがった頃を見計らって
水を張ったお風呂に入れてやることにしました。
うむを言わさず水に放り込んだのですが、そこは水鳥、
お風呂の水でこくこくっとのどを潤し、さっそく水浴びを始めました。
腰の脂腺の脂をこすり取って、羽の手入れをします。
羽の防水が取れたところも、丹念に洗います。
ひとしきり水浴びをして、ほっこり。
とても気持ちよさそうです。
この時、ウミネコは水中にたくさんのフンをやらかしてくれました。
フンの中には回虫などの寄生虫がいる場合があるので、
このようなことをした後は、丁寧にお風呂を掃除します。
(もしもの場合は、たらいなど別の物を使った方が無難です)
洗い場に下りて、残りの部分も羽をきれいにします。
羽は鳥の命、汚れてしまうと命に関わることにもなるのです。
羽繕いを終えて満足そう。
ちょっと鼻の穴の所をよく見てください。
向こう側のタイルのピンク色が見えてるでしょう。
実はウミネコやユリカモメなんかの鼻の穴は、
向こう側まで筒抜けなのです。
ウミネコを保護した週の週末...。
いよいよウミネコを放鳥する日となりました。
朝一番で獣医さんの所へ見せに行くと、
元気になったウミネコの姿を見て、とても喜ばれました。
保護した場所の近くへ行き、ウミネコを箱から出しました。
急に外へ出されたウミネコは、訳が分からない様子です。
5分ほど私の前で戸惑っていたウミネコは、
風を捕まえてふわりと海へ下りました。
6日ぶりの海で、ウミネコはまた水浴びを始めました。
少し冷たい秋の風に乗って、ウミネコは元の海へと帰りました。
ウミネコはキョロパパのことを忘れることでしょう。
キョロパパがウミネコを見ても、きっとわからないでしょうから。
これっきりだね、さようなら。
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